さわやかな読後感、笹生陽子「ぼくらのサイテーの夏」

ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)

ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)

初めて読む作家さんの本。
児童文学作家ということで・・・これがデビュー作とのことでした。


一学期の終業式の日、ぼく(通称・桃井/6年4組/12歳)は仲間とやっていたゲーム「階段落ち」の勝負で、無茶をして怪我をしてしまう。
先生にその罰として、夏休みのプール掃除を言いつけられるぼくだったが。怪我をした桃井を気遣ってか、いっしょに手伝うと申し出てきた栗田とふたりで…。


この日から、「ぼくのサイテーの夏」がはじまるのでしたが…


文章にリズムがあって、とんとんと読めました。
ぼくと栗田がだんだん心を通じ合わせていくところが、何かよかったです。
お互いの家庭の状況など知って…


ぼく・桃井の兄はちょっとしたことでつまづいて、いま中学校にいけないまま部屋に閉じこもる日々。
父親は大阪へ単身赴任。母親は兄のことで悩み、めったに外出もしなくなってしまっている。ぼくは母に言われておつかいに出るために塾をサボったり(友達に買い物をするのを見られたくないから、という理由で)。


一方、栗田の状況というのは、病気の妹のこととか、お金だけはたくさんあるけれど、働く必要がなくなって、家でぶらぶらしているだけという父親。それに失望して家をでてしまった母親とか。

いろいろ問題がでてきます。


でもそんななか、栗田はぜんぜん気負うこともなく、妹の世話をし、学校へいき、桃井といっしょにプールの掃除をこなす。

そんな栗田を桃井はいつしかいいな、と思うようになり…
それから少しずつ、変化が訪れていくのです。
サイテーでサイアクな夏だったはずが、忘れられない夏になっていく。
揺れ動く10代の少年たちのすがたを明るく、たくましく描いた、ちょっといい話でした。