信頼はかえらない?

嵐をつかまえて

嵐をつかまえて


ティム・ボウラー3冊目。図書館にあったので、借りてみました。
まず出だしにびっくり。最初から、ハラハラしどうしでした。


嵐の夜、両親に留守番を頼まれたのに、兄のフィンは友達の家へ遊びに行ってしまった。だがそれは妹のエラが、大丈夫だから行けとすすめたせいでもあった。
3歳の弟と2人のこされた13歳のエラは、真っ暗な家のなか、物音がするのに気づいた。
恐怖にうちのめされながらも、エラは階下へ調べにいくのだが… 危惧したとおりのことが起こってしまう。謎の大男に連れ去られるエラ。


友達の家へ遊びにいったばかりに、こうした事態を招いてしまったフィンは自責の念に苦しむ。
だが誘拐犯の目的は金目当てではなかった。
その目的は、復讐なのか。何のための!?


一方、エラが匿って助かった弟のサムにも異変が起きていた。すがたの見えぬ声にさそわれるように、夜中に家をぬけだし、危険な灯台のある崖にまで出ていってしまう。
サムの聞いている声は、三歳くらいの女の子のものだった。金髪のかわいい女の子。サムはその子といっしょに遊びたくてついていくのだったが…。


フィンが何とか自分の力だけで、妹をとりもどそうと奮闘するすがたが何ともいえません。自分さえちゃんと家にいたら、こんなことは起こらなかったのですから。
そうしたくなるのは当たり前でしょう。
もう藁にもすがる思いで、ダウジングによってエラの行方を探そうとしたら、これが弟のサムのほうがうまくて、やらせてみるんですけど。地図上に指をあてながら、振り子がまわる位置を探していく過程…、もう祈るような思いでした。早く見つけてあげて、って。


また他にも、サムだけが見聞きしているらしい女の子の謎とか、古くなって今にも崩れそうに傾いてしまっている灯台とか、その下にある洞窟だとか、次から次へと興味をひかれるものがあって、まぁ本をおくのが難しかったこと。
これは時間のあるときに一気読みすべき本です。


で、あれこれあって、クライマックス…。誘拐した少年の過去があきらかにされ、その内容に愕然とするわけですが。
発端はどうあれ、彼(少年のことじゃありません)のとった行動は誉められたものじゃなかった、ですね。
それに、裏切られた者たちの思いはどこへ行くのか、失われた信頼関係がふたたび元にもどるためにはずいぶん長い時間がかかるはずです。


彼はこれから、償いの日々をすごすことになるのでしょうか。それだけのことをしてしまったのですから、当然でしょうが。


サムとあの女の子の謎も解決。ああそういうことだったのか、ってすべての事柄が、一本の線に結ばれていくのをみるのは、悲しい結末ながら、納得はできました。
最後、サムが少年と“会話”する場面は心にしみいります。
これからずっとそうしていくのでしょうか。これでよかったのかな、とも思うけれども…。


すべてが変わってしまったあの家族がこれから、どんなふうになっていくのか…。
ちょっとオカルト的な雰囲気のある本書ですが、作者の意図はそこじゃなかった、家族のなかにある信頼感だとか、一体感だとか、そういうところに主眼を置いていたように思います。
フィンと母親の関係はよい感じでした。事件にショックを受けてしまった妹エラもいつの日か心をひらくようになるでしょう。そう願いたいものです。


ティム・ボウラーの作品はまだ6作品しかないようですが、今後も期待のできる作家さんだと思います。未訳のものも、出てくれないかなあ、とひそかに願っている私です。