「宇宙戦争」


宇宙戦争 (角川文庫)

宇宙戦争 (角川文庫)


映画を見てから原作ではどうなっているんだろう?と思って、読んでみました。
うすうすそうじゃないかなと思ってはいましたが、映画と原作ではいくつか違う点があります。(以下、映画と原作の内容に触れますので、ご注意を)


まずストーリー、舞台、登場人物等は全く違います。
イギリスの、ロンドンとその近郊が舞台。
登場人物は哲学方面の著述家で、妻がいます。子どもはいません。
設定も映画とは違って、6年前火星から10個のミサイルが発射され、まるで流れ星のように地球に落ちてきた円筒のなかに火星人とその機械が入っていた、というふうになっていました。
それが主人公の住む家からそう離れていない場所に落ちて…それからロンドンが廃墟と化すまで…とストーリーが進んでいきます。


でも筋や人物の違いはあれど、扱っている内容については映画と同じ流れであることがわかりました。
火星人(映画では宇宙人でしたが)の襲来によってふだんの生活を崩されてしまった人間たちの物語でした。
未知の生物への恐怖におびえ、ひたすら逃げ惑う人びとのすがたも同じ。


いくつか映画を彷彿とさせる場面がありました。

火星人の乗り物である三本足の機械とか、それが出す熱戦によって人びとが焼かれていったところとか、
あと廃墟にこもって機械の触手をやりすごす場面とか、映画ではトム・クルーズが最後には○○しちゃう男とか、原作でもちょっと違う形ですが出てきました。

あと、あのはびこっていた赤い糸みたいなの。
原作では赤草と呼ばれていました。火星からいっしょにきた種から芽生え水辺にそってひろがったとありました。
映画ではいまいち何なのかわからなかったので、そうだったんだとわかってよかった…。

これ以外にも、主人公が妻をつれて逃げていくあいだに馬車で通ってきた田園地方のようす。
彼が借りてしまったばかりに馬車の持ち主が…というところ。ロンドンへ流れていく川の水面を人の死体が次々と流れてきたところ…などなど類似点はけっこう見つかりました。
もちろん主人公と妻が再会するところ…これもいっしょです。


こうしてみると映画では、原作の持ち味をうまく生かして、全く新しい話、いまの私たちが生きている現代の話として作ったのだなぁと思います。
きっと原作をそっくりそのまま映画化するより、ずっとずっとよかったでしょう。そうすることで、より恐怖や不安が倍増してくると思うんです。

原作では19世紀末の時代。映画では現代の私たちの時代、と扱う時代によってストーリーはおのずと変わってくるでしょう。やっぱりスピルバーグはすごかった!!ってとこです。


そして原作者のウェルズさんも・・・

だって考えてみれば、ウェルズがこの本を書いたのは今よりも遠い昔なわけでしょう。それなのにいま読んでも色褪せないものがある。これはすごいことじゃないかと…。


機械や武器のことなど、現代に通じるようなものが描かれているし。火星人の身体の構造など、いまから見たら一見荒唐無稽のものに見えていながら、どうしてそういう形になってしまったのか、それなりによく考えて理由づけてある、とも思いました。
こういうのを先見の明があるというんでしょうか。


SFの始祖と呼ばれるだけのものはあるんだなぁと、いまさらながら実感した私でした。


ちなみに私が読んだのは、今度新しくでた新訳のひとつです。
名まえから察するに女性の方が訳したものらしく、細やかで現代的な印象を受けました。
主人公の人称も「ぼく」となっており、より身近に感じられやすかったです。
もう一冊、子ども向けの本(偕成社文庫)で比較しながら読んだのですが、これはこれでよかったです。
でもどうしても2つほど意味がわかりにくい箇所があって(角川文庫のほう)、子ども向けのほうで確認したらわかりました。
やっぱり子ども向けの本は文章もあまりひねりがなくて、素直な文章になっているみたい。
こちらには地図と詳細な注がついているので、参考にしました。