イルカに乗った少年?パーン新刊感想



さて待ちに待ったパーンの新刊ですが。今日、やっと読了しました!
もっと早く読めるかと思ったんですが… いろいろ忘れていることなどがあったりして、なかなか進みませんでした。


前作「竜の挑戦」からはちょっと話がもどっていて… もういちどパーンの糸胞殲滅作戦の時期を、ゆっくりとしたペースでたどっていった、そういう感じでした。
もっとも、この話はもし、そちらの話(糸胞や竜やなんかの…)をメインとしたら、おそらくサイドストーリーのような話なのでしょう。
ゆっくりしたペースで、というのもそういうことが理由です。


パーンシリーズとしては、竜と竜騎士という構図がメインになっていたわけですが。
それがこの話では脇役に徹していて、主役をパーンの海に棲息していたイルカたちに譲ったかたちになっています。


イルカ・・・地球からの移民がパーンに入植した当時、人間たちといっしょに星の海を渡ってきて、知能と言葉を喋る機能をあたえられ、パーンの海に放たれた彼らでした。
入植者たちを、赤ノ星から降ってくる糸胞が襲ってくるまでは、彼らは人間たちのパートナーとなって、海岸線を調べたり嵐から人間を守ったり魚群のいる位置を教えてくれたり、と人間を助ける、有能な存在となっていたのですが…
未曾有の危機に直面した入植者たち… 慌しく惑星パーンの南ノ大陸を離れ、北ノ大陸へと移住する彼らの船を守り、送っていったあと、イルカたちを呼ぶ人間の声(鐘の音)は絶えてなく・・・。
以来、2500年余り、イルカたちは人知れずパーンの海に生き、いつか自分たちを呼ぶ鐘の音を待ちつづけることになるわけです。


本書は、そのイルカたちと再びパーンの人間が出会うお話です。
竜や火蜥蜴のように心で会話するのとはちょっと違いますが、イルカたちにも人間とコミュニケーションするすべがあったんですね。
言葉を喋れる機能をあたえられて、パーンに入植してきた彼らです。
人間の言葉をおぼえ、喋れるようになったのです。長いこと、人間と接触することがなかったということと、パーンの人間たちの言葉が変わってきてしまったということ、それが原因で、最初はたどたどしい、言葉としてはおかしな言い回しで喋っていました。


でも、私にはそれが何とも可愛らしくて・・・ などと言ったら、知性あるイルカに失礼かもしれませんけど。
だれもが微笑みたくなるような、あのユーモラスな顔から、ああいう言葉がでるかと思うと・・・胸がじーんと熱くなってきてしまいます。
ついに鳴った鐘の音に、必死になってまっしぐらに駆けつけるようすに、自分を呼んだ人間たちに対する、献身的なまでの愛情を感じてしまいました。


嵐から人間を救ったり、魚のいる場所を教えてくれたり・・・人間に奉仕するイルカたち。
彼らには何の見返りもないのに、それが自分たちにあたえられた義務だから、と疑うこともなく駆けつけてくる。入植者たちがパーンに移住してくる際に、そういう存在として作られたから、という見方ももちろんできるけれど。
私にはそうは思えなかったのです。


一途に人間を信じて、長いこと忘れずに待っていたんですから。イルカを愛する人間たち(ジェイジとアラミナの息子リーディスや漁夫ノ頭アレミ、竜騎士ト−リオン…その他もろもろの)、彼らの気持ちが痛いほどわかります。


後半の、嵐にあって傷を負った子イルカを何とかして助けようと奮闘するリーディスとト−リオンのシーンが忘れられません。
とくに、リーディスに感情移入して見ていたものですから。
イルカを舟魚と呼び、ただ息子が危ない目にあうことを恐れるあまりにイルカと接触するのを禁じようとする、無理解な母親アラミナは、ちょっとひどいなと思ってしまったほどでした。
でもまぁ、彼女にも彼女なりの理由というものがあったわけですけど。(前作「竜の挑戦」でその顛末が語られます)


さてパーンももう9巻。これからのパーンはどういうふうに変わっていくんでしょうね。
コンピュータ・アイヴァスの遺産をどう生かすか。
もっともっと見てみたい、です。


次作は過去に遡って、竪琴師ノ長ロビントン師の若き日を描いた作品だそうですが。
直接の続きはそのあと。解説にちょっと気になることが書いてあったので、どういうことなのか早く知りたい気持ちでいっぱいな私です。