タム・リンの妖精譚


妖精の騎士 タム・リン

妖精の騎士 タム・リン


本プロのカルミアさんからの情報で、この本を知りました。
作者が私の好きなクーパーだったんで、おおっ!と思って。これは買いだわ、と勝手に思い込み、Amazonで購入。クーパーという名前だけが頭にこびりついていたためか?買って到着してはじめて絵本だったことを知りました。
早合点!?


でも内容は満足のいけるものだったので、よかったです。っていうより、絵本でよかったのかも〜。
絵本といっても、文章の割合が多いので、子どもに読み聞かせするようなタイプの絵本じゃなく、自分でじっくり読むための絵本でしょう。


クーパーの再話に、ウォリック・ハットンという方が絵をつけて作った、という体裁の本。
同じ方の絵で、『海と島のマイリ』(すえもりブックス)ともう一冊(こちらは未訳)“The Silver Cow”とで、ケルト三部作になっているそうです。こちらも読んでみたいと思いました。


などと前置きが長くなってしまいましたが、この絵本のおかげで、かなり詳しくタム・リンの妖精譚について知ることができました。


↓にもアップした『幽霊の恋人』(アン・ローレンス)でもタム・リンの話が読めますが、こちらの絵本とは違うところがいくつかあって、興味深かったです。
まず大きな点は絵本のほうでは、タム・リンを助ける女の子が王女さま(スコットランドの)だったことでした。
ローレンスの本では、地方の貴族の娘ということになってました。


けれど本質は同じことです。
マーガレット(王女の名前)も、同じように他の貴族の娘のように大人しく部屋で刺繍をするよりも、森でバラの花を愛でていることのほうがより好ましく思えたのでした。


それは、他の娘のように、ただ黙っていつか立派な殿方に見初められる日を待つという、受身の姿勢ではなく、自分から何か行動を起こしたいという衝動に突き動かされてのものだったでしょう。
この点、『幽霊の恋人』のベッキーを思い出させます。


この少女が、カーターヘイズの森で、タム・リンと出会った下りは似たような感じでした。
『幽霊〜』ではつむのはバラの花ではなく、別の花でしたが。サンザシの花だったかな。


マーガレットが、タム・リンのさしだしたリンゴの赤い実を食べるところは、アダムとイブの知恵の実を連想しました。
ふしぎなのは、今は6月でリンゴの実はまだ青いはずなのに…というところ。ただの森のはずだったのに、いつのまにこういうことになっていたんでしょう。
仙境(妖精の国)の香りがしました。


マーガレットがふみこんだ森は、呪われた森とも呼ばれていて、若い娘がタム・リンと関わってしまったら、もうその娘はだれとも結婚することができなくなるとか、そういう話が伝わっているそうで。だれもが避けている森だったのでした。


指輪物語』のロスロリエンのように、この森は妖精の国エルフランドの領域でもあったのでしょうか。
その証拠に、ここでタム・リンと楽しく一日を過ごした王女が夕方、城に帰っていくと、姫を探す大勢の兵士たちのすがたが…。
森で一日過ごしていたつもりだったのに、本当は一週間もの時が過ぎていた、というのです。
これは妖精譚のお約束、ですね。


マーガレットが、タム・リンを人間界にもどす助けをする場面は、先に読んだものとほぼ同じでした。
ただこちらでは夏至祭りとなっていました。『幽霊〜』ではハロウィン。ちょっと時期が違います。
この違いには何か意味があるのかな。


場所は同じ、マイルズ・クロスの四辻。時も同じ、真夜中。
前述の本ではハロウィンのお祭り騒ぎで妖精たちがでてきて…というふうになっていました。
こちらでは、夏至祭りの、妖精たちの騎馬行列で…ということになってます。
その妖精の騎士たちのなかで、タム・リンは炎の息をはく白馬にまたがり、片手には手袋をはめ、もう片方の手は素手で、そして頭には金の星の冠をかぶり… 現われるのです。


マーガレットがタム・リンの手をにぎりしめ、何があっても決して離さずにいる、そのすがたは全く同じです。
こちらは絵本だけに、その場面がより強く印象づけられているかもしれない。


この絵には、安野光雅を連想させるところがありました。見開き2ページのお城の絵があるんですが、それがまた安野さんを彷彿とさせる感じなんです。ケルトの雰囲気がでていると思いました。


↓の本の紹介で、イギリスと書いてしまった私でしたが、正しくはスコットランドでした。ちょっと違ってましたね。
スコットランドに古くから伝わるバラッドから、題材をとっているそうです。


いま私は同じタム・リンの妖精譚を描いたファンタジー作品『吟遊詩人トーマス』(エレン・カシュナー)に取り組んでいますが、これはもっと詳しく、タム・リン(タムはトーマスと同じ)の人物像を掘り下げて書かれてあり、興味深いです。