突き詰められた言葉たち…トーベ・ヤンソン短篇集


トーベ・ヤンソン短篇集

トーベ・ヤンソン短篇集


帰省したときに持っていった本のもう一冊のほうです。
しかしこれを実際に読んだのは、旅も終わりのほうで。帰りの新幹線で、でした。
これだけは残念でした。もし最初からこちらの方を先に読んでいたら、もっと有意義な読書時間を送れたかも。


とくに旅について書かれた作品などについては。
実際、電車で読んだらもっとよかったかもしれません。


どの作品も、切り詰められた文章に、読者の想像をうながすような独特な世界でした。話自体、よくわからないことが多くて。最初からわけがわからない、この人は何がしたくてこんなことをしているんだろう?と煙にまかれたような気分になるものが大半でした。
かと思うと、せっかく興味をもてそうな展開になってきたのに、その顛末など詳細を説明する暇もなく、突然話が終わってしまう。
ありゃりゃ?という感じでした。


短篇集ですが、テーマごとに似通った話を配置させてあり、今度はこういう話かと読みやすかった気がします。
そのなかで、〈奇妙な体験〉と〈旅〉についての作品はどれも大体楽しめたと思います。
パロディふうになっている話や、ちょっといい話みたいな感じの話など、バラエティに飛んでいておもしろかったです。


「ショッピング」は、突然何か突発事故か何か?が起きてしまい、廃墟となってしまった街での話。夫婦のあいだの考えの違いが興味深かったです。妻はこういう状況になっても日常を失おうとしないのに対し、夫は街がこうなってしまった原因をさぐり、現状をなんとか打開しようとします。
夫婦というか、男女の考えの違いなのかな?と思いました。
この二人はその後どうなってしまったのかな?といろいろ想像してしまいました。


ほか「植物園」という話も何だか好きでした。この二人の男性の関係がなんかいい感じです。
〈旅〉のテーマでは、「軽い手荷物の旅」かな?せっかく新しい生活をはじめようと決意して旅立ったのに・・・とちょっと皮肉な感じでした。そういう役回りの人って確かにいるかも?と思ってしまいました。


いちばん不可解だったのは、「リス」という作品です。
ここに出てくる彼女は無人島で毎日、いったい何をやっているのだろう?とそれだけで?でした。
それがリスを見つけて手なずけようとして、それが失敗してしまうと急に自暴自棄になってしまい、それまでは規則正しい毎日を送っていたのに、それから後は前よりは相当いい加減なことになってしまう。
そしてとどめは、最後の一文。書き出しの文章と連動しているのでしょうが、しかしこれに何かの意味があるのでしょうか。
私にはわかりませんでした。
また新たに違った観点から物語がはじまる、という意味なんでしょうか。
うーむ、奥が深いです。


解説にもありましたが、たぶん作者ヤンソンさん自身が投影されているんでしょうね。この話も他の話も・・・
私はムーミンしか読んだことがないのでわかりませんが。
一種の自伝的小説ということになるのでしょうか。


〈子ども時代〉をテーマにした「カリン、わが友」は解説によると、「彫刻家の娘」という話の後日談にあたるそうで。この本はタイトルだけ知っていました。ムーミンにハマっていたころに知って、どうにかして読めないだろうかと探していた時があったので。
結局、縁がなくて触れ合うこともなくきてしまったわけですが、これが後日談ということになるのなら、そちらのほうも読んでみようかな。
なかなか一朝一夕にはいかないかもわかりませんが。
この短篇集も最初は通読できるものかわからなかった…先述の「リス」のところで、読めなくなってもうやめようかと思ったくらいでしたから。


やめないで最後まで読んでよかった、です。
最後のほうに収録されていた〈老いと死〉に関する作品群。
心にしみました。真実の言葉、という気がします。


作中、何度か出てくる単語ですが、ものごとの本質を深くついた短篇集だったと思います。
ムーミン以外のヤンソンさんの顔を知ることができて、本当によかったです。