血の繋がりor心の繋がり?


卵の緒

卵の緒


瀬尾さんの本は「図書館の神様」に続いて、2冊目です。それもけっこう前に読んだ・・・
何故、いままで読まなかったかというと、「図書館の神様」は読まれたかたみなさんが仰っているように、よいことはよかったんですが、どうも最初私が思い描いていたのとはちょっと違っていたようで。
う〜ん、どうしようかなぁ・・・、と思いながら、いつのまにか月日が経っていました。


今回、読んでみたのは友人が読んでいたからで…、新刊の「優しい音楽」を。彼女の車のなかに置いてあったのを、そぉっとのぞいてみて…、それでよぉし私も!なんて思っちゃったんですね。単純〜


さすがに新刊は貸し出し中だったので、既刊分を借りてきました。



「卵の緒」

この話に出てくる母と息子はまるで友人のように、対等な関係のようで・・・ お母さんもさばさばした性格で、常識にとらわれないところとか、ちょっと毛色の変わった女性。


でも美味しいものを食べた時、いちばん好きな人の顔がうかんで、食べさせてあげたいって思うこと。
そういうのは、なんかいいですね。
心がほっかりする感じがして。


ある日、この母親がにんじんブレッドを焼いてそれがあまりに美味しくって。
友達の池内君にも、食べさせてあげたいって思う育夫君。
そこで母がとった行動とは。
朝の7時に電話して池内君のお母さんにも許可をもらって、家に呼んでしまう。その後、育夫君に、今日は学校を休んで池内君といっしょにいたら?なんて提案する。なんて母親なんでしょ。
ふつうの母親だったら、こんなこと絶対に言わなかった。言うはずがないです。


最後のほうで、この素敵な母親と息子の育夫君が・・・
という事実がわかるわけですけども。
そういうことがわかったとしても、依然として母と子の関係は変わらない。まさに、血の繋がり以上の繋がりがあったわけですね。


新しいお父さん、朝ちゃんもいい感じ? この家族(一人ふえて四人家族)は今後もいい関係をつづけていくことでしょう。



「7's blood」


これも血の繋がりがテーマの作品。
七子と七生。父さんがつけた。」で、はじまる冒頭部分・・・それからして興味をひかれる文章です。


自分の父親の愛人が生んだ子ども・・・
ふつうなら、存在自体、敬遠して認めないものでしょう。
なのに・・・


母親がどうしても、と引き取ってしまう。
七生の母親が傷害事件で刑務所に入ってしまったため、保護者がいないから。そして七生は七子の母親に気に入られてしまった。
そして七生が家にきてから5日後、突然、母が倒れ、入院してしまう・・・


それから、七生と七子の生活がはじまった・・・のでした。


七生は本当によく出来た小学生で。外見も愛くるしく、だれもが愛さずにはいられなくなるような少年です。
でもそれは、七生が生きるための方便だった。
小学生が生きていくためには、必要なことだった、というの・・・これって、けっこう衝撃的な言葉ですね。
確かに、母親があんなふうで(水商売の女性で、おまけに刑務所・・・)、父親はすでに亡く・・・ 
母親が事件を起こす前は、入れ替わり立ち代り変わる母の愛人とともに生活し、体に痣がふえる毎日・・・


そうした状況ならば、少年がそういうふうに、他人の目に自分が可愛らしい子どもとしてうつるように、自ら作って(欺いて)しまうというのは・・・わかる気がする。
そんなふうに育ってしまうというのは、ある意味悲劇。


だけど、七生にはそんなふうな悲壮感だとか、マイナスイメージがない。育ってきた環境からは予想もつかないほど、明るいし、そつがない。
最初は何かとすれ違いばかりだった七子も、いつのまにか七生とそれなりにうまくいってしまっている。


そのきっかけとなったこと。腐ってしまったバースデーケーキを二人で食べる場面。
そこのところは、ぐっとくる場面でしょう。


高校生と小学生、いっけん共通項などなさそうな関係なのに。
いつのまにか二人は本物の家族になってしまっていた。
そして訪れる別れの時・・・
もう二度と会わないだろう・・・ その時に。そっとかわされたさよならのキス。


血の繋がりはないけれど、これからも会うことはないのだけれど・・・ それでも心には確かに繋がるものがある。


さわやかで、心がほんのりあったかくなるラストでした。