いせさんの持っている「空のひきだし」


空のひきだし

空のひきだし


まるで「雲のてんらん会」の副読本のように、オーバーラップする内容でした。
雲に対するいせさんの思いを、ここでは文章というかたちで読むことができます。
絵本だけでは伝わりにくいだろう部分が、これを読むとわかってきます。


いせさんってまさに絵描きさんだったんですね。
亡くなられたお父様も絵描きさんだったそうですし。


短い文章のなかに、いせさんの人柄が見え隠れしてます。
亡くなったお父さんのこと、娘さんのこと、そしてやはりガンで亡くなってしまった愛犬グレイのこと・・・
ぽつぽつと静かに語られる文章のなかに、繊細であたたかいいせさんの心がうつしだされているようで。


ここにもグレイの話が載ってます。
とくに、「空駆ける犬」「雷雲」「曼荼羅」のなかに。
「空駆ける犬」・・・末期がんで、もう元気がなくなって、玄関でじっと外を見ながら、伏せている犬。
もう夢のなかでしか、駆けることができないグレイ。
それを見つめるいせさんの目… そんなすがたを見ることは痛くてたまらないだろうに。
「雷雲」では、高校2年生の娘さんMさんのこと、自分の絵を借りていったNHKのこと、病気の犬を在宅でケアしていることに対する世間の人々の視線など、ちょっとした、でも腹立たしいことについて書かれてました。
雷雲にたとえてるんでしょうか。病気の犬に対して、「もう死んだ?」と、聞いてきた編集者。これは酷いです。


「あなたの待っているのは、守ってもらえる〆切か、それとも……。」


「『入院させないの? 勤め人だったらできないね、そんなこと』『早く楽にしてあげなよ』『安楽死だけはやめてよ』『欠陥商品だったのね、お宅の犬』
評論はもういい!」


そんな言葉にいらだちながらも、雷は落ちなかった。
それはおだやかにすわりながら、空を見上げている犬がいたから…。


そして「曼荼羅」。逝ってしまった夏を悼んで、他のものに目を向けられないで、佇んでいるいせさん。
いせさんにとって、空と犬とは切っても切れないものになったのかもしれない。


まるで文章で絵を描いているような、エッセイ本でした。
グレイのことについてもっと知っていたら、さらに感動できたかもしれません。
これは、ずっと積読していた「グレイがまってるから」を読むべきなのかも。


いせさんのすべてが「空のひきだし」にしまってあるのかも〜 なぁんてことをふと思ってしまった秋の日でした。(まだまだ暑いんですけど、秋は確実にそこまできています)