一族の物語・・・「塵よりよみがえり」

『塵よりよみがえり』レイ・ブラッドベ


塵よりよみがえり

作者: レイブラッドベリ, Ray Bradbury, 中村融
出版社/メーカー: 河出書房新社
発売日: 2002/10
メディア: 単行本


ちょっと時間がかかってしまったけど、やっと読めました。
この本は、まさにこの時期、ハロウィン近くのこの時期にふさわしい本でした。


ハードカバーの帯に「魔力をもつ一族の集会がはじまる!」とありますが、この一族というのは若き日のブラッドベリが考え出したもの。とくにこれ、と特定はしてませんが、人間じゃない存在…吸血鬼、翼のある男、心をとばす能力をもった女…と尋常ならざるものたちの総称をいうらしいです。
ブラッドベリはエリオット一族と呼んでいるそうですが。


長編とはいえ、これは過去に書かれた短編を集めて、新たな章でつないで… っていう形をとっています。
だから長編というよりもオムニバス形式の短篇集といっていいような気がします。


そして過去に書かれた短編、といっても長編の体裁にあわせて少しずつ改作されています。
先に読んだ『10月はたそがれの国』に入っていた「集会」「アイナーおじさん」もありました。ほかにも、あれこれ…
これはブラッドベリ好きのかたにとってみたら、宝物なのかもしれない…
とくにこれ!というストーリーはないのですが、ひとつの屋敷の誕生から消滅まで…
順に読んでいくとその流れがわかっていきます。
またひとつひとつの話をそれだけ読んでも楽しい。長編としても短編としても読める、ひとつぶで二度美味しいみたいな?贅沢な本なのではないかと思いました。


このなかで私が好きだなあと思ったのは、やはり魔女セシーのでてくる話。魔女といってもちょっとふつうの魔女とは違い、彼女はほとんど一日眠っており、心だけが駆けていくのです。そこで出会った人や動物、木や花や水溜りや、ほとんどのものに宿ってその目から世界を見るという能力をもつ。
なんともふしぎな存在なのです。
そんな彼女がいたずら心からおこした騒動をえがいた「さまよう魔女」(他の作品では「四月の魔女」)爽やかな感じがしてよかったです。
ここに出てきたトムが最後のところで……っていうのがまたよかった。ほぅ、ここにつながるのか、って。


10月はたそがれの国」にもでてきたアイナーおじさんもいい。翼の生えた男っていうそれだけでも興味をひかれる存在ですが。屋敷のなかで唯一の人間であるティモシー少年がかっこいい、と憧れるその気持ちもわかります。

それと、墓のなかから生まれてだんだん若返っていき、最後には赤ん坊になって女のひとの
お腹のなかに宿るという女性の話。
これを読んで、私はあっ!と思いました。だって似ているんですもん。梶尾真治さんの
『美亜に贈る真珠』美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇 (ハヤカワ文庫JA)
この中の「時尼に関する覚え書」に出てきた女性と同じ能力なんです。
ふつうの人と違って後ろ向きに歳が若返っていく女性。これもまたふしぎな世界。
本当ならこんなことありえないのに、ブラッドベリが書くと何故か信じてしまいたくなる。
そんな話の数々です。


そして後半からまたちょっと不気味な感じの作品が出てきます。「オリエント急行は北へ」とか。
屋敷にせまりつつある不気味な何か、それがだんだん作中にでてきて。あぁ〜、と嫌な予感が。
おこった出来事は何か抽象的、というか現実とはちょっとかけはなれた、詩的なイメージでした。


詩的…というのはブラッドベリ作品の全編に流れており、ふつうの小説とは一味ちがうという感じです。
まさにレイ・ブラッドベリ的なのかもしれません。


表紙の絵はブラッドベリが所有の絵、チャーリー・アダムズの絵だそうです。
まさにたそがれの国、って感じで、雰囲気がありますね。
私も一目で気に入りました。今度でた文庫版はどうなのかな?少し絵の色合いが薄いような…?


10月が終わるまでにもうちょっと何か読んでおきたいと思ったのですが、読みきれないかもしれません。
なので、10代の頃に初めて読んだブラッドベリの本にしようかなと思ってます。あれなら短いし、ハロウィンそのものの本だし…


ということで、つぎ行きま〜す!