友桐夏「盤上の四重奏」

またもリリカル・ミステリーです。
今回のは、前々作「白い花の舞い散る時間」の番外編、というか前日譚という感じでした。

でもこの作家さん、前よりも巧くはなっていると思いました。ところどころ、言葉の使いかた等気になる部分がなきにしもあらずでしたが。話しの作り方というか、そういうのは巧いのかな?

有名な進学塾に入学した17歳の都(みやこ)。彼女はこれまで『特別な』存在として、学校にも通わず、ある閉鎖された環境で育てられてきた、きわめて稀有な存在。それがその学習塾に通うことになって… 生まれて初めてできた友人とも気軽なお喋りを楽しむことができた。その友人、璃花(りか)との会話のなかで、都は塾内部に『特別な生徒』がいる、という噂を知り、もしや自分がお忍びで通っている事実がどこかから漏れたのでは?と危ぶむ。塾の生徒の今日子と初音が言い合う場面にも遭遇したりして。自分こそが特別なんだ、と主張する彼女ら。

都、璃花、初音、今日子。四人の少女たちを取り巻く陰謀… だれを手駒にし、味方につけるか?まるで歴史もののような様相。加えて、あの学習塾の非現実的な実態。西洋建築の豪壮な塾内で、生徒らは優雅なひとときを過ごす。それは勉強のため、というよりはいかにして己の手のうちをひろげ、優秀な人材を獲得するか、そんな人生をかけた闘いの場のよう。

ここに出てくる高校生のなかにはひとりとして、普通の高校生はいません。あくまでも架空の物語のなかの人物という設定。おそろしく現実味がうすく、言動も現代日本の人間のようではありません。言うなれば、漫画ですね。これが漫画だったら、受け入れやすいんでしょう。いかに突飛な人物設定も、壮大な物語も…。
その意味で、恩田陸の学園青春ミステリ(「麦の海に沈む果実」等)に通じる部分もあるかもしれません。

都は「白い花の…」に出てきた登場人物の母親にあたる人物。その後の人生などもちらりとわかっているので、相手になる男性は?とか、いろいろと予想しながら読みましたが。ラストでいい意味で裏切られましたね。そうとは思わなかった。彼女が黒い服ばかり好んできていたその理由もわかりました。(…というほどのことでもなかったかも?)

ラスト近くになるまで、いったいだれがだれの味方なのか?とか、この人物はじつは・・・?とかいう謎が全くわからず、都はごく普通に塾生活を楽しんでいるだけ、というノリなので、いったいいま何をしてるんだろうか?とか、この登場人物の思惑は何なんだろう?とか、はっきり言って?マークだらけなので、わけがわからず、もやもや状態という感じです。

都の正体は、前作で出てきたあの団体組織のトップということになるんだろうけど。何か言葉を使う力みたいなものがあるみたいだけど、具体的にどういうふうになっているのかよくわからない部分があって、そういう場面になっても、あ、そうか、いま・・・っていう状態だったんだよね?たぶん…っていう感じで、どうもいまいちピンとこなかったのでした。
私の読解能力の問題?かとも思いますが。

途中はそういうふうに何だかもやもやしてるけど、ラストで突然、謎の解明してくれるので、ハッと目がさめる感じでしょうか。それでも、はっきり名前や事実などを指摘してる感じではないので、ぼんやりと、こういうことなのかなあ?たぶん…って印象はありました。

コバルトにしてはまだ読めたけれど、どうも胸のすくおもしろさ、というものとは無縁のようで。謎が提示されて、それが結末にむけてパタンパタンと閉じられていく、という格好の本ではなかったですね。別にそれを期待してたわけじゃないですが。