「だれも寝てはならぬ」ガース・ニクス、マーガレット・マーヒー

だれも寝てはならぬ (Kids’Night In)

だれも寝てはならぬ (Kids’Night In)

「今夜はだれも眠れない」の姉妹編ですが、こちらはほとんどすべてよかったという印象です。
全体的に、ミステリアスでせつない系のお話が多かったように思えます。タイトルの「だれも寝てはならぬ」がしっくりきますね。以下、個々の感想を。

「スター」(マリアン・カーリー)
未邦訳の作家で私も当然、初めて読んだわけですが、最初から違和感なくさくさく読めました。唐突に話が始まってるなあ、と思ったけどそのわけはあとでわかりました。そういうこと、だったんですね。ちょっとせつない・・・

「ぽた、ぽた、ぽた」(マロリー・ブラックマン)
邦訳はコンピュータ・ミステリ(?)「ハッカー」というのがあるようです。怪談っぽい感じで、ラストでえ!とおどろく感じでした。怖くて哀しい話です。

「アンダー・ザ・スキン」(セリア・リーズ)
『魔女の血をひく娘』が有名どころ?私は海賊の話『レディ・パーレツ』を読んでますが。
アステカのあの儀式って、いつか漫画で読んだことがあります。ピラミッドの階段上で・・・なのですよね。生け贄なんて野蛮だと思いがちだけれど、歴史の中では必然だったのかもしれません。悲惨なことでしょうけど。

「珍品の館」(フィリップ・アーダー)
『あわれなエディの大災難』ほか…が邦訳されてます。
この話も不気味な感じですね。曰く付きの骨董品だなんてそれだけでも怖いのに。それにしてもデ=ビル氏だなんて!そのものズバリだ。よく気がつかないよ! 最後に出てきた鉄の箱。本物をドイツで見たことがあります。中世拷問博物館とかいうところで… こんなのばっか見てたら、気持ち悪くなって外にでてしまった私でした。

「空の船」(ジェラルディン・マコーリアン)
私は読んでないけど『不思議を売る男』で有名な賞を受賞してるんですよね。この話も不思議な話。空のうえにまた異世界があるという考え方は面白いですね。荒唐無稽なんだけどついつい信じてしまいそうになる。魅力がありました。

「動物園のふしぎな家具」(デボラ・ライト)
未邦訳の作家?なんか聞いたことがあるんですけど?
この話はほんと子どもが読んだら喜びそうな楽しい話でした。この子のドケチな両親についてはちょっと気になりましたが。家具が生きてるだなんて、ちょっとハリポタ的?このおじさんはウィーズリーおじさんを連想してしまいました。

「シーッ!」(ブライアン・パッテン)
これも未邦訳?ごく短い詩です。絵本にでもしたら、面白いかも。

「ウサギのチャーリー」(ガース・ニクス
『サブリエル』を初めとする古王国物語が有名な作家ですが、私は未読(今年こそ!)なのですが、この話はこの本ではいちばんよかったです。幼い兄弟が、と思うとそれだけでも涙がでてきそうですが、最後までどうなるのかわからなくてドキドキものでした。この子たちの両親、祖父母は・・・と思うとまた哀しくなりますが。戦争の悲惨さ、ここでもわかります。

「ポッサムの真実」(ジェームズ・モロニー)
未邦訳。オーストラリアの作家なんですね。ポッサムというのは、フクロギツネ。カンガルーの仲間でしょうね。見かけは可愛いかもしれないけど、性格は凶暴そうですね。話はギャグみたいになってるけど、一家の身になれば深刻です。最後がまたお約束みたいで。楽しいです。

「影泥棒」(マーガレット・マーヒー)
『足音がやってくる』『めざめれば魔女』など邦訳は多数。私も最近『錬金術』を読みました。
この話も似た雰囲気がありました。あの幽霊の表現がことに。顔が爆発するとかいうの・・・『錬金術』に出てきた霊とイメージが重なるなあ。でも話はシリアスというよりはユーモアっぽい?面白かったです。

「はみだし者」(エヴァ・イボットソン)
『ガンプ―魔法の島への扉』『アレックスとゆうれいたち』が邦訳あり。4人兄弟の末っ子セオは、ほかの兄弟と全く似たところがなく、そのためにとてつもなく不幸になってしまっている。まるで「みにくいあひるの子」状態なのだけど、そのセオがある家に興味をひかれるようになることから、ちょっと事態が変わってくる。ラストはやっぱりね、と思ったけど、あまりにハマりすぎて、何かいいのかな?…という気にもなった。みんなが幸せになれたからいいのかもしれないけど、結局、あの家族のなかにはちっとも愛情というものは育たなかったんだろうか?・・・育たなかったんだろうなぁ?悲しむべきことだろうけど。

「海をわたったカエルの話」(ディック・キング=スミス
『ゴッドハンガーの森』など多数の動物に関する邦訳作品があるそうです。この話もカエルの話だし。そういえばフランス人ってカエルが好きだったんですね。カタツムリも好きそうだけど。好かれたほうも大変だ。ちょっとした小話ですね。これは。

「自伝のためのメモ」(モーリス・グライツマン)
『はいけい女王様、弟を助けてください』邦訳あり。父親が作家の家族の話なんですが、これは楽しいですね。ユーモアがあって。英語の単語の綴り違いとか。言葉遊びみたいなもの?こういうのは原文で読めたほうがより楽しいんでしょうねえ。

「チェリーパイ」(ロス・アスキス)
アリーテ姫の冒険』が邦訳。これって結構有名かな?
チェリーパイに関する詩ですが。詩っていうのは私にはよくわからないのでいい悪いとか言えませんけど、これは単純に楽しい詩ですね。子どもが好きそう。

「カルロスへ」(マイケル・モーパーゴ)
ザンジバルの贈り物』『ケンスケの王国』ほか邦訳多数。
これはガース・ニクスの「ウサギのチャーリー」と並んで心にぐっときた作品でした。ともに戦争に関する話で、家族が生き別れてしまう哀しい話です。
チャーリーの話はそれでも最後には元気がちょっとでる感じでしたが、これはそのまんま哀しい。十歳の誕生日をむかえた少年がもらった最高の贈り物。生涯、それを忘れることはできないだろう、最高に嬉しく最高に哀しい贈り物です。
戦争で亡くなった父親からの手紙…。あふれる愛情、別れの哀しみ、そして戦争というものの本当の意味…それらがこの手紙には書かれていました。
父親の言葉は胸にずっしりと重くきます。こんな短い作品で戦争の悲惨さ、惨さを描き出している。すごい作家です。何かほかの作品も読んでみたいと思いました。

「バブル・トラブル」(ロジャー・マクゴー)
『いったいこれはなんじゃらほい?』邦訳あり。これも詩です。タイトルしめすように、バブル・・・しゃぼん玉に関する詩。なんというかすごく色彩的な詩ですね。目にうかぶようです。リズムもいい感じだと思いました。

「モルモット・レース」(ジョージア・ビング)
モリー・ムーンの世界でいちばん不思議な物語』が邦訳としては有名どころ。この作品はごく短い、ゲームに関する紹介文?です。感想はなんていうこともないんですが。モルモットを使ったゲームの掛け金をチャリティの資金集めにするという発想が日本にはない発想かな、と思ったり。
まあこんなゲーム自体ありえないようなものですが。

以上、思ったことをつらつらと書き連ねてみました。
内容もジャンルも、小説、詩、短文と多岐に飛んでいてとても楽しめました。最初、せつない系の話が、と書きましたが、そのなかにもちらちらと楽しい、子どもの心を引き立ててくれるような作品があって、そういうのもよかったですね。