ファンタジーの理想形・・・「海鳴りの石−ニディナ城の巻」山口華

四部作の第1巻目です。私がこの本のことを知った経緯はネット書店の新刊案内で、だったのですがそれからずいぶん月日が過ぎて… 先日、ネット検索をしていたら作者さまのブログにぶち当たったのでした。すぐにこれはあの時の、気になるファンタジー本だと気がついて、興奮のあまりBBSに書き込みをしていました。

で、それから図書館にリクエストして…(ほんとは購入したかったけど、お財布状態が厳しかったので)やっと4冊きまして…、1巻をようやく読みました。

一読後、懐かしい〜!!と思ってしまいました。何と言うか、文章も登場人物も話の展開も、ほとんどすべてがファンタジーの理想形のような気がしました。ふつう、ファンタジーというとすぐにうかんでくるイメージ… そういう雰囲気みたいなものがこの本を読んでいて、よみがえりました。たぶん私が学生時代に好んで読んでいたファンタジーの香り。中山星香トールキンやアイルの書やなんやかんや・・・おもにハヤカワFT文庫の・・・です。

父親が書いた物語のなかの主人公から力を貸してくれとたのまれ、そのまま物語世界へと入り込んでしまう、「僕」の物語。伝説と歌にみちた島国レープスで、「僕」は世継の君フェナフ・レッドになりかわって、その世界で彼が体験するであろう物事を自分のものとして体験していきます。
最初、私は「僕」の意識だけがフェナフ・レッドのなかに共存して、そのまま時々でたり入ったりしていくのかと思っていましたが、それは違いました。最後まで読むとよくわかります。ただ、「僕」は現代の人間なのに、その世界にいったらすぐに違和感なくその場に溶け込んで、言葉や習慣その他についても何もとまどうことなく、ごくごく自然に出てきたようすでした。
これはフェナフ・レッドの肉体が覚えているからだろう、と思って読んでいましたが、最後まで読んだら、ん?違うのかな?とちらっと思いました。

視点もだいたい通常はフェナフ・レッドの目から、ということになっているのですが、時々「僕」の視点が入ってきて、その主観による感想が現代的な感じになっています。たとえば、異世界のものについて説明するのに、現実の世界だったらこういうもの、というふうに。そういうところはファンタジーに不慣れな読者にとってみたら、ずいぶんわかりやすいだろうし、忘れがちな「僕」の存在を思い出させてくれる結果にもなりましたね。

ストーリーも波乱万丈を絵にかいたようなもので、主人公フェナフ・レッドの身になって読めます。それと特筆すべきことは、「僕」=フェナフ・レッドであるように、ガールフレンドのエミー=王女サティ・ウィン、「僕」の弟=フェナフ・レッドの弟リファイン、というようにところどころに雰囲気どころか顔そのものがずばり同じ!という人物が登場する点でしょう。
これは、「僕」の父が実際に書いている物語であることを考えると、何らかの関連性があるものと思われます。話は一応、プロローグとエピローグに挟まれていったんは終結(とはいえ話的には終わってない、続いてます)を見ているので、今後どのようになっていくのか、楽しみなところです。

〈黒衣の君〉〈輝く星姫〉海賊王サザ、炎の女神など、伝説や歌で語られているような魅力的な存在も多く登場してきていて、今後どのように絡んでいくのか楽しみです。とくに、タイトルの「海鳴りの石」。やっと後半になって登場してきましたが、あれはどうなるんでしょう?早く続きを読まなければ。

自分的に好きだと思ったシーンは、フェナフ・レッドとサティ・ウィン王女が神殿で雄牛の打鐘を鳴らし、サン・サティエス(輝く星姫)の歌を再現してみせるところです。まさに、伝説が動き出した瞬間!って感じで。嬉しくなりました。
こういう歌のシーンはやはりトールキンの影響なのでしょうか。作者は『指輪物語』を大学の卒論に選び、『終わらざりし物語』の翻訳グループにも参加されていたそうです。
私はまっさきに中山星香の漫画(花冠や妖精国)を想像してしまいましたが。じつはトールキン以前に星香さんの漫画に触れていた私でした。

あと3冊、楽しんで読めたら・・・、と思います。