「真実の帰還」〈ファーシーアの一族3〉 ロビン・ホブ

真実(ヴェリティ)の帰還 上<ファーシーアの一族> (創元推理文庫)

真実(ヴェリティ)の帰還 上<ファーシーアの一族> (創元推理文庫)

真実(ヴェリティ)の帰還 下<ファーシーアの一族> (創元推理文庫)

真実(ヴェリティ)の帰還 下<ファーシーアの一族> (創元推理文庫)

シリーズ最終巻。やっと読めました!ずいぶん時間がかかってしまいましたが、でも読んでいるあいだ、次の展開が気になって気になって、とにかく夢中になって読みました。

さて前作で、とんでもないことになってしまっていたフィッツ。この巻では、それまでの自分の人生をリセットして、新しい人生を歩んでいくかにみえたのですが・・・やはりそう簡単にことが運ぶはずもなく。

最初は白紙状態にもどってしまったかのようで、人間としてというよりはまるで狼のような言動のフィッツでしたが、だんだん過去の記憶がもどってきて、それではこれからどうするか、ということになった時、やはりフィッツは過去を捨てきれるはずもなかった。忘れたいほどの苦痛を受け、辛酸を舐めたのに、いやだからこそか。恨みの向かうのは叔父であり、現在は王位簒奪者でもあるリーガル王子。
フィッツは自分の積年の恨みを晴らすため、復讐の旅に出るのです。故郷のバックを離れ、遠い内陸まで。
ところが、というか当然というか?その復讐心は彼の敵に利用されてしまう。いわば敵の思う壺にはまったフィッツ。あわやというところで、そんな彼を救ってくれたのは・・・フィッツにとってはもっとも敬愛する者。フィッツはその彼の言葉にしたがって、(というかしたがわずにいられず)新たな旅に出る。すなわち山の王国をこえ、行方不明のヴェリティ王子のもとへと。

山への旅はそれだけでも困難でした。現在は、王となったリーガルによって山の王国との国交は断絶されていて、山への道は閉ざされていたのですから。それだけでも困難なのに、また思いもよらぬことが起こり・・・ままならぬフィッツの運命に心が痛みます。

この巻で新しく登場した人物もいました。まず吟遊詩人のスターリング。山への道の途中で出会うのですが、彼女はフィッツのことを歌にするんだ、と言い張って、むりやり彼の旅についていきます。
ただ陽気で、おおらかな性格の気のいい女性と思っていましたが、のちに過去が明らかにされ、彼女もまたそれなりの人生を送っていたのだとわかります。それどころか、女性の身の上だったら、かなり過酷な人生です。その彼女がフィッツのために、吟遊詩人にとっては最も怖れる事態になってしまったときは、驚きました。普通だったら、寸前でとめられるようにも思えるのに。

同じくフィッツの旅の仲間となった、謎の老女ケトル。彼女にも隠された過去があり、年老いた身でありながら、フィッツの旅に平気な顔で同行したり、それどころかだんだん元気になっていったりして・・・〈技〉の力のことで何かと悩むフィッツに何かと助言をするようになっていきます。まさしく思わせぶりな、何かありそうな人物でしたが、その正体はまた思いもよらぬもので。まさに、そうだったのか!という感じでした。

このスターリングとケトルと、それから前作からお馴染みの登場人物(王妃や道化)ら。そしてフィッツと〈気〉の相手である狼のナイトアイズ。山の王国を越え、人跡未踏な地へと踏み込んだときは、まさにこれぞファンタジーぞ!という感じで、非常にわくわくしました。古代の都市なんかも出てきたりして、過去にあったことなどいろいろ想像して面白かったです。黒い柱や、〈技〉の道という小道具もそうですし、突然出てきた石のドラゴンたち・・・これは既存の型をやぶるような、種々雑多なようすをしてましたが、手にふれると確かに石の感触で、彫刻以外の何物でもないのにその奥に何か感じるものがあるなど、ファンタジーならお約束みたいなものかもしれないですね。

ラストにかけての数章は本当に目が離せなかったです。いろんなひとの過去がわかったり、またこれからのことが示唆されていたり。
モリーとのことは本当に残念でしたが、それもそうなってもおかしくはなかったでしょう。というより、あの状態では必然だったでしょうね。でも私はフィッツとともに泣きましたよ、運命の過酷さに。

六公国の運命についても然り、です。せまりくる「赤の船団」の脅威に、六公国も崩壊か!?と思わせられましたが、最後にはああいうふうなことになって、いちおうはホッとしました。
溶化(フォージ)という、人の魂をすべて抜き取り、廃人と化してしまうという現象についても、説明がされていて、あらためてそうだったのか、と思いました。まさに因果応報といいましょうか、運命はめぐるといいましょうか。歴史というものは繰り返されるものなのですね。

いや本当に長い、長い物語でした。いわばフィッツの人生を幼少時から成長期、一人前の大人へと、ともになぞってきたわけですから。終わってみれば、そうだったのか!と驚くこともたくさんでした。最初の巻の数ページをちょっと読み返してみたら、それがわかりました。どんな思いで、彼がこの手記を書いていたのかわかって。
とてもせつなく、辛い気持ちになりましたが、それもまたひとつの人生なのでしょう。
この作品はファンタジーとはいえ、現実世界と何ら変わりのない重みや痛みをもっていると思います。
だから感動をおぼえるのでしょうか。フィッツとともに喜び、哀しみ、苦しむ・・・

二転三転する展開にも翻弄させられました。
どうしてこんなことになっちゃうの、悲しすぎると思うことしばしば。それも現実となれば、そういうこともあるでしょう。ファンタジーだからといって、架空の物語だからといって、ただ楽しくご都合主義的に何もかもがうまくいって、最後には大団円・・・そんなふうであってもいいのでしょうか。

まさに訳者さんのあとがきにもあるとおりです。

物語は一応の終息をみましたが、また続編があるそうで。訳者あとがきに、詳細なその後の展開が書かれてありました。それを読んだら、また先が読みたくなりました。もうすでに老人の心境で!?隠棲生活に入ってしまったフィッツのその後とか、ファーシーア王家の後継者のこととか、いろいろ気にかかることはいっぱい、と心はすでに次の巻。訳者さんには一日も早い翻訳を望みたいです。

このシリーズをまだお読みでない方にも、ぜひおすすめしたいです。長いですけど、それだけの収穫はありますから。