「花の魔法、白のドラゴン」
- 作者: ダイアナ・ウィン・ジョーンズ,佐竹美保,田中薫子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2004/08/29
- メディア: 単行本
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購入してから、ほぼ2年。積読してました〜。
前回読んだ『バビロンまでは何マイル』の続編ということになりますが、内容的には独立しているんで、あっちを読まなくて十分、入っていけます。
ていうか、あまり前の話のこと詳しくは書いてないし。
別の世界のお話、と割り切って読むのもいいかもしれないですね。
でも読んでいて、時々気づいたんですが、微妙に重なっている部分があったりして。そういうのに気づくとちょっと嬉しいです。
たとえば、この本の舞台ブレスト。この世界はじつは・・・っていうところ。直接には関わっていないけど、微妙にリンクしてて楽しいです。
そういうことを思うと、両方でセットで読んでもまた楽しい作品なのですよね。
さてこの話は、前作にもでてきたニックといく少年と、ブレストに住む少女ロディ(本名はアリアンロードという素敵な名前)。
このふたりが交互に語るかたちで、進んでいきます。
最初はそのつながりが見えてこないけど、途中ふたりが出会うことで、だんだんわかってきます。
その頃には面白さも倍増です。
ブレストというのは、ニックの住むイギリスと似て非なる世界でした。魔法が使われる世界ってことです。つまり、前作で説明されてた分類でいけば、正域ってことになりますね。
この世界で特筆すべきは、王の〈巡り旅〉というものがあるということでしょう。普通、王さまというものは自分の城のなかにどっしりと居を構えているものでしょ。
それがこの世界では違うんですね。〈巡り旅〉といって、あちこちを旅して回ってるんです。
その旅にくっついていく家臣たちがいるんですが、ロディのお父さんはそんな家臣の1人で、お天気を司る魔法使いということになってます。
お母さんも同じく王さまの家臣で(なんと財務官!)、家族全員で王さまについて旅にでています。
そんな時、王に使える魔法使いの1人であるマーリン(個人名でなくて役職名)が突如、亡くなってしまうのです。新しいマーリンがすぐさま選ばれて。スペンサー卿所有のベルモンテ城で、新しいマーリンはある儀式を執り行うのですが…
その場で、ロディはとある陰謀が秘密裏に進めれられていくことに、偶然、気がついてしまいます。幼なじみでいつも世話を焼いている少年グランドといっしょにそれを目撃してしまった彼女は大慌て。すぐさま母親に打ち明けようとしたのに、そんな暇もなく、突然ウェールズのお祖父ちゃんのところにやられてしまったり…
あらすじはこの辺でやめますが、そんなこんなでハチャメチャに話が進んでいきます。
まさに、え?え?の連続です。
一方、ニックの方は偶然、地球の自分の世界から、異世界に飛ばされてしまい、何故なのか?どうしてそうなったのかもわからず、右往左往するばかり。
右も左もわからないまま、行動させられますが、その結果とんでもないハメに陥ってしまうんですね。
力のある魔法使いに命を狙われたり、突然やめた〜、と気を変えられたり。
何がなんだかわからないうちに、ストーリーのほうはどんどん進み、やがてニックとロディのふたりの世界が交錯するシーンに…。
あのシーンはとても面白いものでした。
世界から世界へと、移動するためには、ある小道に入らなければならないみたいなのですが、ニックは何気なく、ふっと、ごく自然にそこへ入っていけるみたいなんです。
何の気もなく歩いていたら、ふっと気づいたら全然べつの世界に入り込んでしまっていたとか。
無意識に備わっている能力ですね。
ニックのその力が働いたせいなのか、それともロディのかけた魔法が通じたのか、ともかくもふたりの世界がつかのま交錯します。
そのシーンはあとで、ロディの視点からも描かれますが、面白いですね。
たとえば、道を歩いていたら突然、変なふうになって、見知らぬ少女のすがたが見えた。話がすんでまたニックが道を進んでいくと、前触れもなしに、少女のすがたが掻き消えたという、この変さ!!たまりません。
いまふっと思ったのですが、これってコンピュータの液晶画面のようですね。ある地点からは見えるのに、ちょっと横にずれると全く見えなくなるというところ…なんだか連想させます。
コンピュータといえば、ロディが授かった古代の魔女の魔法の力というのが面白いです。
タイトルに「花の魔法」とあるように、それは様々な花の名まえがひとつの力に関係のあるファイルのようになっていて、それが、必要な時に適切なものがロディの頭のなかで自動的に開いていくんです。
もうこうなると、魔法というよりも、パソコンのなかにあるいろんなソフトのようですね。ロディの頭のなかがコンピュータになっているんです。そこから、きわめて合理的にファイルが開き、ロディは新しい魔法を習得することができるんです。
従来のファンタジー作家が書こうともしなかった、新しい試みですね。まさにジョーンズさんらしい手法だと思いました。
ニックの力も、先にも書きましたが、面白いです。
自分が意識してないのに、勝手に体が無意識に行ってしまうところ。自在に、異世界へ移動する能力、のように見えます。
その力のおかげで、ニックはいろんなおかしな世界へさまよいこむのですが、それが後に重要な意味を持ってきたりして。あとになってこういうふうになったんだ、ということがわかってくると、また楽しい。
ふたり以外にも、魅力的なキャラクターは満載です。
ロディのふたりのお祖父ちゃんたち。
ウェールズのお祖父ちゃん、いいですね。だいじなことをわかってくれてる、と感じます。
「マジド」になって活躍してる方のお祖父ちゃんも。あとになって、ニックとの関わりがわかってくるのですが。
他にも変わったお祖母さん、叔母さんがたくさん。
ニックがロディを羨ましく思う気持ち、ちょっとわかります。さぞや退屈しないでしょうね!大変そうだけど。
人間じゃない、動物にも思わず、微笑んでしまうキャラクターがいます。ゾウのミニに、ヤギのヘルガがそうです。彼らが登場するシーンは爆笑ものです。
これら不思議で、魅了的な登場人物たちが巻き起こす、上へ下への大騒動! これぞDWJの最大の魅力と言っても過言でないでしょう。
もう1個のタイトルのキーワード。「白のドラゴン」・・・この使われ方もじつに心憎い。効果的、ってこういうことを言うんだな、って感じでした。
これ一冊で、数冊分の魅力が詰まってます。
まだの方は、ぜひご一読を!
と、やっとこ読んだ私ですが、お薦めしておきます。