「雪の断章」佐々木丸美
- 作者: 佐々木丸美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1983/12
- メディア: 文庫
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再読ですが、私が佐々木丸美さんの本を初めて読んだのは、この本からでした。それまでは存在すら知らなかったんですが、ネットで知って読みたいと思いました。こんな作家がいるのか、とちょっと驚きでした。何か世間の灰汁にまみれてないって感じで。まさに雪のように清らかな世界でした。
で、今回の再読ですけど。もうだいぶ忘れてて〜 また楽しめました。主人公の倉折飛鳥があすなろ学園という施設をでて2年間。養女としてもらわれていったと思ったのに、実際は全然違ってて。同じ人間とは思えないほどこき使われ、一瞬も休む暇もないほど。おまけに同い年の娘、奈津子は学校で酷い振る舞いを飛鳥に対してする。完全に使用人扱いです。
その本岡家の主人ってのが、『夢の館』にでてきた、本岡剛造。いかにも悪そうな名前ですが、この家は社会悪の象徴として、飛鳥の前に現れます。
札幌大通り公園で、4歳の飛鳥が出会った親切なお兄さん。彼に拾われ、ひきとられるまで、そしてその後の生活でも、本岡家は飛鳥に影を投げかけます。
とくに飛鳥が高校生になってから、アパートに入ってきた本岡聖子という人物。
彼女は本岡家の長女で、飛鳥の同級生奈津子の姉。飛鳥を拾って育ててくれた滝栄祐也という青年は北一商事に勤めている。その北一商事の親会社である東邦産業に、祐也の友人、近端史郎が勤めている。東邦産業というのは例の悪の権化、本岡剛造の勤め先でもあります。
というわけで、ここに何らかの確執があったワケです。そしてこれが後の事件の鍵になってる。根が深いです。
何か頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうですが。『夢館』にも滝栄という青年が出てきたけど、名前は雄司になってました。もしかして祐也のお兄さんか何か?ちょっと読みが足りなくって分かりませんでした。
ほかに北斗興産というのも出てくるんですが、『雪の断章』にはそれらしい下りは出てなかったですね。でもこの会社も東邦産業の子会社的な感じと思うので、関係はありますね。
私はすっかり内容を忘れていたんで、このあと『夢館』とかを読んだら、もっと面白いかも、と思いました。作品間で相互に関係があるっていうの、いいですね。佐々木丸美ワールドにハマっていく予感大です。
一応、殺人事件が起こるのですが(この下りは何となく覚えてた)、それも飛鳥によってすぐに犯人が見破られちゃって。これはミステリとはいえないですね。それより心理ドラマという印象。
マルシャークの『森は生きている』になぞられてる部分が多々あって、それがとても新鮮でよかったですね。とくに四月の精を祐也に見たててる部分。ロマンスですね。
育ててもらった恩から、飛鳥は彼への思慕をおさえ、何でもないふりをして共同生活するわけですが、それでも時々とんでもない行動に出てしまう飛鳥はすごく愛らしいですね。
そんな彼女をずっと幼い頃から見守ってきた祐也もだけど、そばにいていつも絶妙なフォローをしてくれてた史郎の存在も忘れてはいけないでしょう。
ケロリと冗談にまぎらわせて、でも本心では飛鳥のことを人一倍思って、見つめていたと思うのに・・・せつないです。最後の彼の手紙は。
彼もまた虐げられていた側の人間でした。飛鳥と同じ。だから、あれほど飛鳥を愛し、見守ってきたのでしょう。
最後に、『雪の断章』というタイトル…。舞い落ちてくる雪のひとひらに、飛鳥の、史郎の、祐也のそれぞれの想いがこめられているような、そんな印象をうけました。