「猫のゆりかご」カート・ヴォネガット・ジュニア

初めて読んだんですが・・・SFです。
何とも感想の書きようがない、という感じなのですが。


主人公の私は作家。以前はキリスト教徒だった彼は、原子爆弾の父といわれる人物、フィーリクス・ハニカー博士の三人の子どもたちに、広島に原爆が落ちた日、何をしていたかについてインタビュー、『世界が終末をむかえた日』の執筆にとりかかるはずだった。
が、失踪中だった長男、フランクリン・ハニカーの居場所について情報を得た私は、南の島、サン・ロレンゾ共和国にむかうことになる。その地で、私はキリスト教徒から、ボコノン教徒に変貌する。

ボコノン教というのは、イギリス国籍の黒人、ライオネル・ボイド・ジョンスンによって作られた宗教。

その教義、というか、祈りの行為(?)に、足の裏をくっつけて、他人の意識と交流する、というのがあって、それがなんというか間抜けな感じがして、おかしかった。


本の最初のところでは、けっこう普通の小説ぽくなってたけれど、主人公が南の島へいくあたりからだんだん、妙な具合になってきて・・・

最後には、悲惨な結末が訪れる、っていうのに、悲惨なばかりか、あまり現実感がなく、どこかふわふわと浮遊しているような印象。

ナンセンスで、ブラックユーモアにみちた、風刺SF小説?

最初、読みにくくてただただ眠かったのですが、だんだん文章に慣れてきたのか、面白くは読みました。
が、声を大にして、これは面白い!!といえるような感じじゃない。

なんといったらいいのか。すべてが冗談みたいな感じでした。どの登場人物にも感情移入はできないような、そんなふうでした。

っていうか、この小説はそういうふうには読まないものなのかもしれませんが。痛烈な皮肉と毒素にみちた小説?
結末は怖い。怖いけど、その怖さをリアルに感じられないような類の小説でした。

アイス・ナインという物質自体は、SF映画にでも出てきそうなシロモノでした。


それから、タイトルの「猫のゆりかご」とは、あやとりのことを言うそうです。あやとりで、絡めた紐をゆらゆらさせて子どもに見せるっていうの・・・世界でいちばん古い遊びだそうですが。
日本人には理解できないことですね。
ハニカー博士の末っ子、こびとのニュートの「猫なんていないし、ゆりかごもないんだ」、意味はわからないけど、ちょっと怖いような気がしました。
心の闇をのぞき見るような感じなのかな? 心にぽっかりと空いた深淵。
それって、家庭を顧みることもなく、科学にしか興味のなかった父親に育てられた、彼の心なのかも。
ほんとは育てられてなんか、いないんですけどね。


とまあ、なかなか深いところもありましたが、すんなりと面白いと言い切るのもちょっと・・・って微妙なところでした。ヘンな人物もいっぱい出てきましたし。
あんまり深く考えないで読むべき小説なのかな?