「この闇と光」服部まゆみ

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

失脚した父王とともに、小さな別荘に幽閉されている盲目の姫・レイア。優しい父と侍女のダフネ、そして父が語り聞かせてくれる美しい物語だけが、レイアの世界の全てだった。シルクのドレスや季節ごとの花々に囲まれた、満ち足りた毎日。しかしレイアが成長するにつれて、完璧だったはずの世界が少しずつ歪んでゆく――。

服部まゆみ、初読書でした。初めてでしたが、魅了されまくり!でした。


最初は闇なんです。主人公の盲目のレイア姫が幽閉されている場所もどこかよくわからないうえ、何よりそのレイア姫自身が目が見えず、その視点で描かれている物語にも、闇で満たされているのです。

そしてそこに、ひときわ激しく、強くにおっているのが、ダフネの匂い。
優しい父と違って、言動すべてにおいて荒々しく、レイアに対し、攻撃的なダフネ。闇のなか匂ってくるダフネのにおいは、中庭に咲いていた沈丁花の香りといっしょでした。ある日、それに気付いたレイアは恐怖のあまり、その花が咲いているあいだは中庭にはでないと言い張ったほど。

レイアの楽しみは本を読んで聞かせてもらうこと。父に読んでもらったり、テープにとってもらってそれを聞いたり・・・。生まれつき賢い彼女は、字を書くことすらマスターし、その知識欲は限りなく、もっとたくさんの本を読んでもらいたがり、父親を困らせることにもなってしまう。

小さい頃はそれで済んでいたが、成長にしたがってそうも言っていられなくなる。
父王の様子も時に苛立つことあり、それはこの国の境界でいさかいが起こっていることに起因されているのか?度々、国境にでかけていく父に不安を感じつつ、父がいないあいだ食事の世話をダフネに任せるのをすら拒否して、何とか自分だけで済ませられるように努力する彼女でした。

闇のなか様々なことに考えをめぐらすレイア。その利発さに、父は喜ぶが、ダフネは唾棄するがごとく、正反対の反応を彼女によこす。それはレイアの理解に及ばぬことであり、未だに恐怖の元でもあった。

それが闇のなかの出来事。
そこから、一気に光がやってくる。

ある日、突然異変が起こり、レイアは無理やりダフネに連れられ、あわただしく着替えさせられ、別荘を車で出発するが・・・ここにいて、とレイアに示された場所に、従順に座って何者かを待ちつづけなければならない恐怖。
そんな、わけのわからない恐怖が、読者にも伝わってくる。

このことが起こるすこしまえ、レイア自身に何事か異変が起こるのですが。そこのところを読んで、私は変だな、おかしいな、何も処理しないのかな?と思ったものですけど。

やがてやってきた光とともに、暴かれた真実。それには、まさに驚きました。世界がそのままひっくりかえった、ていう印象でした。囚われの身だったレイア姫。彼女がまさか・・・・とは。

この最初のほうのあらすじを読んで、たんなるファンタジーだと思ったら大間違いです。詳しくは書けませんが、これは強烈な読書でした。

最後のところもまたいいですね。実際、確かめるというのは。どちらかというと、以前の生活のほうが〈彼女〉にとっては、善きものだったのでは?などと思ってしまいます。何かこの話を書いた、というふうにもなっているんですけど、どちらが本当なのでしょうか。本当なのだろうと思うのだけれど、でも本当に?本当にそうだったの?と邪推してしまうようなところもある。
不思議な余韻をもった作品でした。