「ちんぷんかん」畠中恵

ちんぷんかん しゃばけシリーズ 6

ちんぷんかん しゃばけシリーズ 6


しゃばけシリーズ第六弾。いや新刊といっても、もう発売から半年以上たつんだけども。でもまあ、このシリーズは一応の話の流れみたいなものはあるけれども、まぁどこから読んでもOKなんで。
久々に読んだけれど、違和感はなかった。


けど、「鬼と小鬼」で若だんなが三途の川のほとりにきてしまった、というのはちょっとあらまあという感じだった。
でもそれも何かの間違いできてしまったということは明白なのでそう驚きはしなかったけれど。

子どもたちが三途の川のほとりで、石を積む光景がちょっと胸に痛かった。積むたびに蹴散らかす鬼が、本当は子どもらのことを思っているのだ、ということがわかってちょっとよかったと思った。

若だんなが現世へもどろうと、黄泉比良坂を駆けていく場面で、伊邪那岐伝説にならってあめ玉だの銭など投げてみるところが面白かった。そして最後。仁吉特性の苦〜い薬が流れていくの・・・鬼でさえも耐えられなかったって、ちょっと笑ってしまった。


「ちんぷんかん」は、算術合戦!?
鶴亀算とか、ああいう算数の問題ってほんと苦手だったので、すらすら解けちゃう人は尊敬する。
苦手な者にとっては、まったくちんぷんかんなことだった。


「男ぶり」では、若だんなの母おたえの若い頃の話が読めてよかった。おたえが恋にのぼせた相手がほかにいたんだ、と意外な展開だった。
で、若だんなの父、藤兵衛(藤吉)の若かりし頃も…。最後、思う人にふられてしまったおたえが泣いているところへ藤吉がものすごい褒め言葉でもって慰めたエピソードがまたぐっとくるって感じ。
「お嬢さんが泣くと、この世の全ての花が、枯れてしまいます」だなんて、よく言うよ、という感じだけど。
でも藤吉のような人だからこそ、なのかもしれない。


おたえが惚れていた相手、辰二郎みたいに格好良いところはないのかもしれないけれど。
ひたすら優しくて、いっしょにいて気が楽になれる、そんな相手こそ結婚相手としては最適なのかもしれない。
藤吉すごいよ!と思ってしまった次第。まさしく藤吉のような男こそ男ぶりがいいのだろうな。

そんな二人から生まれた若だんな。その人柄の所以がよくわかる。



「今昔」では、陰陽師式神が出てくる。若だんなの生きている時代には、もう陰陽師は廃れて式神が使えるような者はいないという。そんな時に登場する式神・・・ その目的とは!?という話。

若だんなの兄、松之助に縁談が・・・。
縁談の相手である、病弱な姉と、松之助が偶然出会って惚れてしまった妹。いったいどっちが?と思ったけれど、納得のいくかたちで終わってくれてよかったよかった。

若だんなのお兄さんにそういう話がくるのなら、いつか若だんな自身にもそういう恋がくる日も近い!?のかな。


「はるがいくよ」。儚くて、幻のような美しさに満ちていて、この話がいちばん今回は気になったと思う。
桜の花びらから生まれた、小紅。あっというまに赤ん坊から成長して大人へと変わり身していく娘、小紅には涙をさそうものがある。
暖かい春の一日に、若だんなと鳴家たちといっしょに、散りゆく桜を見上げている小紅。その瞳が目にうかぶようで・・・・若だんなのこと本当に好きなんですよ、と言う小紅はせつなかった。

儚く散っていこうとする命を前に、この世に生きる者の命の重みを感じる若だんな。
でもこの身さえも、妖である仁吉や佐助にとっては、つかの間この世に生きて儚く散っていってしまう命と同じなのだと悟る・・・それもまた重たかった。人の命は、誰でもいつかは終わるのだということ、普段は忘れてしまっているそのことを、小紅を送る若だんなの姿に思った。