「ニコルの塔」小森香折★★★★


児童書です。中部電力の児童文学賞受賞作。

ニコルは修道院学校に属する少女。毎日、寄宿舎と授業塔を往復するだけの単調だけれども静かな日々を送っていた。
だがその日は特別な日だった。塔の主、修道院の院長先生との対面が控えた日。生徒たちのなかから特別、優秀な生徒たち12人が選ばれて、院長先生の授業を直接受けることになったのだ。
授業…それは地球のマントという真っ黒な布地に与えられた図案をもとに刺繍をすることだった。
そう、ニコルの学ぶ修道院学校の授業とは、刺繍することそのものだった。


12人の生徒たちはそれぞれの刺繍台を割り当てられ、地球のマントに刺繍をはじめたのだが、それには二つのある決まりがあった。それは塔で見聞きしたことは決して口外しないこと、無駄なお喋りをしないこと、とくに地球のマントに刺繍するときはけっして声をださないこと、だった。


だが、ニコルは刺繍しているあいだに不可解なことに気づきだす。何度もやり直しさせられながら裁縫針の図案の刺繍が完成したあと、自分の裁縫箱のなかの刺繍針の数が一本増えていることに気づいたのだ。
それはちょうど刺繍したばかりの針と全く同じサイズだった。
そんなことに気づいたのはニコルただひとりで…


疑問を感じつつも次々に刺繍を完成させていくニコルだったが、そのうちまた不思議なことが起こる。
大好きな猫の図案だったらよかったのに!と思いながら、刺したシダの葉っぱの刺繍がいつの間にか猫の刺繍のようになっていたのだ。シダの葉っぱ模様の猫…
その夜、ニコルの部屋にそのシダでできた猫がやってきたのだ。
そのときからニコルのなかで何かが変わっていく。
ずっと何とも思っていなかった修道院学校での生活に疑問を抱くようになってきたのだ。
そんなニコルの前に突然、あらわれた「男の子」。
『ナニモミルナ、ナニモシルナ。タダヒビヲスゴセ』
毎朝、塔へと自転車で出かけながら、少女たちの耳にささやくように唱和する鳥の声。
ニコルはそれが何なのか、どうしてなのかと秘密を知ろうとし、そんな彼女を学校の教師たちは異端者として警戒する。
そして修道院を取り巻く霧の向こうに見えた古城に向け、ニコルとシダの猫サルヴァドールは出発する。
そこでニコルを待ち受けていたものは…


といったお話です。
それほど意外な結末というわけでもなく、ストーリーの流れもある程度予想できるものでしたが、こういう自己発見と自由への逃亡、といったテーマの作品はかなり好きみたいです、私。
自由を失って束縛されている、というところで去年読んだ「マライアおばさん」を思い出しましたが、こちらはごくごくまっとうなお話でした。
あとがきにありましたが、これはレメディオス・バロという画家の描いた自伝的三部作の絵から着想を得て書かれたものだそうです。
私は不幸にしてその存在すら知りませんでしたが、ちょっと見てみたいなと興味を惹かれました。どんな絵なんでしょうね?


それと最後のほうに出てくる鳥の王のアブラクサス。元ネタは何か神話か何かだったと思うけれど…? 私が知っていたのはアプラクサスだったと思いますが。
それをもじって昔、お話を書こうとしたけれど挫折したのを思い出しました(^^ゞ


この作者の本は初めてでしたが、他にもいろいろ書かれているようなのでまた何か読んでみようかと思っています。ちなみに名前を変えられたようで、以前の名前は橋本香折さんと仰るようです。


*本のプロ レスより*

すもも > 最近では『おそなえはチョコレート』読みました。低学年向けです。橋本香折さんのお名前のときの本『ブラック・ウィングス集合せよ』『五月の力』というのも良かったです。爽やかな文章で読ませてくれる上手い作家さんだと思います(エンタテイメント好きなわたしには、少々物足りなさもありますが)『ニコルの塔』、おもしろそうですね。しっかり、メモしました。 (2004/01/13 10:22)
ときわ姫 > 私はこの方を全然知りませんでした。図書館で検索してみたら「橋本」「小森」両方とも何冊も入っていました。この本もあったのでつい予約してしまいました。知らない作家の本を読むときは、最初の一冊がその後に影響するのですが、すももさんはこの本こそ読んでいないけど、ほめているし期待できそうです。 (2004/01/13 10:43)
北原杏子 > すももさん、私は人から教えてもらうまでは全くこの作家を知りませんでした。他にもいろいろ書かれているんですよね。今回の本がまあまあだったので、他にも読んでみようと思います。
ときわ姫さん、すももさんも良いと仰っているのでたぶん…ですが。あまり期待しすぎるのもどうかなあ?とは思いますが。感想で書き忘れましたが、こみねゆらさんが表紙と挿絵を描かれているのですが、それが良い雰囲気を出しているとと思います。 (2004/01/13 23:48)
すもも > 実は『ナシスの塔の物語』(みおちずる)という本が好きで、タイトルの『塔』に惹かれて、読み比べてみたくなったのです。こみねゆらさんの挿絵ですか。楽しみがひとつ増えました(^^) (2004/01/14 10:19)
北原杏子 > すももさん、みおちずるって読んだことはないんですけど…どうですか?「女海賊ユーリ」というシリーズ物(?)があって読もうかと手に取ったけど、ちょっと低学年過ぎて気がひけて戻してしまいました。図書館にあればよかったんだけどないし、さりとてリクエストするには気恥ずかしいし。で、いつの間にか時間が経ってました。 (2004/01/15 01:05)
北原杏子 > 間違えてました。訂正します。↑「女海賊ユーリ」は正しくは「少女海賊ユーリ」でした。一字違うだけで全然違った物語になってしまいそう(^^; (2004/01/15 01:10)
すもも > 一巻『なぞの時光石』しか読んでないので(現在・三巻)ちゃんとした感想は持ってないのですが、SF風味のファンタジー、といったところでしょうか。シリーズを重ねるごとに、おもしろくなっていくのかもしれませんが、まだ2巻目までは、手が出ていません。ところで作者さんのお名前は「ちずる」ではなく「ちづる」でした。ごめんなさい。 (2004/01/15 09:48)
北原杏子 > すももさん、レスありがとうございます!
そうそう、「なぞの時光石」っていうタイトルでしたよね。なんかそのタイトルに惹かれるものがあったのでした。2巻目だったかな、あの上橋菜穂子さんが解説を書かれていたこともあって、どんな本だか興味を持ったのでした。 (2004/01/16 23:56)