「くじ」シャーリイ・ジャクスン

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)


よかった! 異色作家短篇集の何しおう作品だったと思う。
この作家の本は『ずっとお城で暮らしてる』を読んでから、その次に読むことになった。『ずっと』は衝撃作だったけれど、この『くじ』もまた・・・
人間の悪意というものがちらちらと仄見えて・・・読んでいくうちにその毒がたまらなくなってくる。癖になる。

これは短編集だったけれど、その毒がうすまるなんてことはなく、それぞれの作品すべてにおいてそうだった!

以下、とくによかった作品について簡単に感想メモを。

「魔性の恋人」
これはのっけからまた・・・と思った。恋人に去られても、もしかして・・・と待ち望んでしまう女性の心理がよく描かれている。狂気にとりつかれてしまった人間のように、おかしくなっているのが・・・。


「おふくろの味」
これはもう最高に酷かった(褒め言葉です)! なんでなんで、こーなっちゃうの??
このマーシャって女は! デーヴィッドって男も男だ。なんかやりかえせばいいのに! と、思いつつ、でも最後にはこうなってしまうんだよなぁ、と思った作品。前作の「魔性の恋人」にも出たハリス氏再登場。なんて悪魔的なハリス氏!

「決闘裁判」
この作品でも、前作同様、理不尽なものを感じた。自分の部屋のものを盗まれているのに、腹の底では黒いものをかかえながら、表面上はにこやかに接しているなんて!怖いなぁ・・・で、結局、こうなってしまうのね。あーあ…

「ヴィレッジの住人」
これもなんだかなあ、と思った。なんで成りすます?普通にできないのか!何でこんなに屈折しているのかわからない。でもわからないけど、面白いんだよねぇ。

「魔女」
子どもってのは時々、おっそろしく残酷になってしまう瞬間があるよね。笑いながら、こういうことを言っちゃえる。

「背教者」
自分家の犬がよそで悪さをして・・・ってのはそれだけで頭の痛いことでしょうけど。それにしても、町の人たちみんながそのことについて知っていて、射殺するんだろう、って目で見られるのは辛いね。子どもたちも子どもたちだ。やっぱり子どもって残酷なのか・・・!

「どうぞお先に、アルフォンズ殿」
これもまた子どもの出る話で。偽善的なウィルスン夫人の考えがわかってて、それを自然に要らないと要ってしまう黒人の少年の対応がまたよかった。

「チャールズ」
これもまた子どもの関係する話で、これがいちばんアクが強かった。
最後でオチが判明。やっぱり!ッて感じ。

アイルランドにきて踊れ」
これも偽善的に、人に施しをしてやっては喜んでいる人間の話。その底の浅さを、アイルランド人だという浪人はすっかり見抜いている。最後のひとことがいいね!

「塩の柱」
これは都会に出てきた、田舎者の考えることがよくわかる。私も田舎に住んでいるので、この気持ちは共感できた。何もかもボロボロ崩れていってしまう・・・ってところがまたよかった。

「大きな靴の男たち」
身重のハート夫人のところに手伝いで来ているアンダースン夫人。だんだんこの夫人の手の内に嵌っていってしまう、ハート夫人が気の毒だ。先行きが・・・何とも暗い。

「歯」
歯の治療のため、夜行バスで大きな町の歯医者にいく女の話だけど、ここにも出てくるハリス氏。名前はジムだったけど。(話しによってはジェイミーだったり、ジェームズだったり)
これぞ悪魔。魔性の恋人ってわけだよね。巻末に詩が紹介されているけれど、このジェームズ・ハリス氏というのが出てくる。「魔性の恋人ジェームズ・ハリス」って詩が実際にあるんだねぇ、へぇ!
悪魔に魅入られていく人間の心理がよく描かれている。

「くじ」
最後のこれは、いちばんの衝撃作だった!
このくじという方法がすでにして怖い。村中の人間が集まって、くじをひく。子どもも大人も、女も男も、老人も若者も関係ない!すべてが平等にくじをひいて、そしてそのくじをひきあてたものは・・・
ふつう、家族だったら何とかしてやろうとするもんだろうに、この家族はそうじゃない。ってか、この村の人たちすべておかしい。他の町では、すでにくじで選ばれることなく、こういうことをやっているっていうこと?
それもとっても怖ろしいことだ。
今の時代にある、いじめとか排除とか、そういうことを強く考えらせられる。
くじで選ばれた人間は、ある意味、犠牲者なんだろうな。ひとりが代表になって罰せられる、っていうの。
すごーく怖い世界。


ジャクスンの魅力にすっかりとりつかれてしまった模様、です。今度、長らく品切れだった『たたり』が復刊されるそうなので、ぜひ読みたいと思ってます。
この『くじ』という短編集も、手許に欲しいです。